「あの子、技術はまだまだなんですけど、なぜか評価が高いんですよね」


最終更新:2026年11月4日

執筆

伊東 亜樹(有限会社S.A.アソシエーション 代表)

介護支援専門員・介護福祉士・相談支援専門員。特別養護老人ホームの現場職員から施設長、法人本部での企画・運営を経て、現在も現役のケアマネジャーとして支援の現場に立つ。介護分野に特化した登録支援機関として、外国人介護人材の採用・定着・国家試験合格を支援。

「あの子、技術はまだまだなんですけど、なぜか評価が高いんですよね」

施設長や主任から、よく聞く話です。逆もあります。「あの人は仕事はできるのに、どうしても任せられない」。この2つは、同じ理由で起きています。介護職員の評価は、技術より先に「姿勢のルール」で決まっているからです。

評価基準があいまいな事業所は、必ず荒れます。がんばっている人ほど「見てもらえていない」と感じ、できる人ほど「なぜ自分が」と不満を持つ。正直、評価の話は、最後は離職の話なんです。

この記事では、私が特養の現場職員から施設長、法人本部まで20年以上かけてたどり着いた「仕事のルールは2種類ある」という考え方と、評価と指導への組み込み方を書きます。制度の話ではありません。明日の申し送りから使える話です。

1.「がんばっているのに評価されない」の正体は、評価基準の混線

「うちの職員、がんばっているのに評価されないって言うんです」。管理者からこう相談されたとき、私が最初に聞くのは介助の技術ではありません。あいさつを自分からしているか。10分前に職場に着いているか。呼ばれたら「はい」とすぐ返しているか。この3つです。

たいてい、どれかが抜けています。本人は「自分なりにやっているから」と思っている。でも、評価は他者が決めます。自己評価は無関係です。お店を選ぶとき、店主の「今日のスープは過去最高だ」で選ぶ人はいません。食べた人が決める。職場も同じです。

このあたりは、なぜ、必死にアピールする人ほど評価されないのかで書きました。今回はその一歩手前、「評価者は何を見て決めているのか」の話です。

評価者は、「できる・できない」の前に、「やるか・やらないか」を見ています。この2つを分けずに評価表へ並べているから、現場で評価がねじれるんです。

2.介護現場の仕事のルールは2種類 ― 姿勢のルールと行動のルール

私は職員研修で、まずこういう問いを出します。「会議は定刻に開始する」「午前9時には持ち場についている」「利用者からのクレームは毎月1件以内に抑える」「3か月後に事業所を黒字化する」。この4つを2つに分けてください、と。基準はひとつ、「できる・できないが存在するかどうか」です。前の2つにはそれがなく、やるか、やらないか、だけ。後の2つにはある。前者が「姿勢のルール」、後者が「行動のルール」です。

定着支援のテキストには、こう書きました。

「姿勢のルール」:できる・できないが、ないルール。やるか、やらないか、だけです。あいさつ、身だしなみ、時間、返事、報告。
「行動のルール」:できる・できないが、あるルール。介助の速さ、記録の量、日本語。これは、半年で差があって当たり前。成長で、上げていきます。

※ 表は横にスクロールできます

比べる点 姿勢のルール 行動のルール
できる・できない 存在しない 存在する
介護現場の例 あいさつ、身だしなみ、時間、返事、報告 介助の速さ、記録の量、日本語、担当できる業務
人によって差がつくか つかない。全員が100%できる つく。半年で差があって当たり前
求める水準 毎日100%。99%は0%と同じ 期限と状態を決めて、少しずつ上げる
守れないとき 言い訳は成立しない。その日に事実を伝える 原因を探し、育成計画に落とす
評価での位置 土台。崩れていると上は見ない 土台の上に積む。給与と役割の「区別」はここ

出典:『福祉の仕事 考え方と姿勢の本』(S.A.アソシエーション定着支援テキスト、2026年10月)第4章をもとに作成

当たり前に見えます。でも、多くの事業所の評価表では、「あいさつができる」と「排泄介助が一人でできる」が、どちらも5段階の1項目として同じ欄に並んでいます。これが混線の正体です。

3.なぜ介護職員の評価は「姿勢のルール」で先に決まるのか

テキストには、こう書きました。「評価は、まず『姿勢のルール』で決まります。ここが100%でない人は、技術があっても信頼されません。ここが100%の人は、技術がまだでも『育てたい人』になります。」理由は3つあります。

理由1:できる・できないがないから、言い訳が立たない

介助が遅いのは、経験が浅いからかもしれない。でも、あいさつをしないのは、経験の問題ではありません。だから姿勢のルールが欠けている人は、「やらない人」と見られます。やらない人に、人は次の仕事を渡しません。

理由2:組織の中の「位置」は、ルールを守る回数で決まる

上司と部下の関係は、肩書きではなく、「ルールを決める側」と「ルールに沿って動く側」という役割の積み重ねで決まります。姿勢のルールを守る回数を増やすことで、上下関係が定着する。守らなくても何も起きない状態が続けば、位置が崩れます。崩れた位置の上に、どんな評価制度を載せても機能しません。

理由3:上司は、誰に先に教えるかを選んでいる

管理者の時間は有限です。誰に先に教えるかを、常に選んでいます。基準は「過去の経験」ではなく「学ぶ姿勢」です。経験は更新できませんが、姿勢は今日から更新できる。だから、技術がまだでも姿勢が100%の人は「育てたい人」になるんです。

現場からの視点

朝の申し送りで、夜勤者の報告が終わって日勤者が持ち場に散るとき、「はい」と返事をして動く人と、黙ってうなずくだけの人がいます。私は施設長のとき、この数秒を一番見ていました。返事は技術ではなく、相手の声が届いたという合図です。ここで無言の人は、利用者の変化を見つけたときも、たぶん黙っています。

私の師匠の指導は、「はい」か「Yes」しかありませんでした。返事は0.1秒。毎日、心臓がどきどきしていました。でも、その厳しさの裏に「利用者の尊厳を守る」というはっきりした考えがあったから、みんなが信頼しました。管理者に要るのは声の大きさではなく、「なぜ100%求めるのか」を一言で言える考えです。私はこう言います。「返事がない職場では報告も上がらない。報告が上がらない職場で、事故は隠れる」。

4.2つのルールを混ぜて評価すると、良い職員から辞めていく

混線した評価表の下で、現場では2つのことが同時に起きます。ひとつは、技術の高いベテランの遅刻やあいさつ抜けが黙認されることです。「あの人は仕事ができるから」。管理者がそう言った瞬間、新人は学びます。「ここは、仕事ができればルールは守らなくていい職場だ」。例外を作ると、例外が基準になります。評価の壊れ窓は、ここから始まります。

もうひとつは、姿勢100%の新人が「まだ戦力じゃないから」と低く評価されることです。入職3か月で介助が遅いのは当たり前です。それなのに評価表では「あいさつ5点、介助2点、記録2点」で平均3点。本人には「がんばっているのに、評価されない」としか映りません。こういう人ほど、黙って我慢して、黙っていなくなる。

12.4%訪問介護員・介護職員の離職率(2職種計)
27.3%前職を辞めた理由で最多の「職場の人間関係に問題があった」
45.8%そのうち「上司や先輩からの指導や言動がきつかった、パワーハラスメントがあった」

出典:公益財団法人介護労働安定センター「令和7年度 介護労働実態調査」事業所調査・労働者調査(2026年7月公表)

辞めた理由の一番は給料ではなく人間関係で、その半分近くが上司や先輩の指導や言動です。評価基準があいまいな職場では、指導が「基準に照らした事実の指摘」ではなく「上司の気分」になる。きつく感じるのは当然です。

現場からの視点

夜勤明けの外国人職員と、玄関先で立ち話をしたことがあります。「わたし、あいさつも時間も全部守っています。でも、評価は日本人の先輩より低いです」。姿勢のルールは100%でした。評価が低い理由は、介助の範囲がまだ狭いこと。正しい「区別」です。でも、誰もそれを説明していなかった。

私は彼女にこう言いました。「あなたの評価の土台は満点です。次は、できる仕事を1つ増やそう。入浴介助を一人でできるようになったら、評価は上がる」。彼女は納得しました。管理者の仕事は、評価を下げないことではなく、「何が満点で、何がまだなのか」を分けて言うことです。分けて言えば、人は怒りません。混ぜて言うから、辞めるんです。

5.「厳しい指導」と「姿勢のルールを守らせる」は別物

「姿勢のルールは言い訳なく100%守らせる」と言うと、怒鳴って守らせる職場を想像する人がいます。逆です。

姿勢のルールを徹底できている事業所ほど、指導は静かです。基準が紙に書いてあるからです。「10分前に持ち場に着く」と決まっていれば、5分前に来た人には「今日は5分前だったね」で終わります。基準がない職場では、同じ場面が「最近たるんでるんじゃないか」になる。これが「指導がきつい」の正体です。

私自身、児童養護施設を立ち上げたときに、正しいことを強く言いすぎて仲間を失いました。正論は、ナイフのように人を傷つけます。あの失敗から学んだのは、「正しさを声で押すな。基準を先に渡して、事実だけを返せ」でした。姿勢のルールは、管理者が感情を使わずに済む仕組みなんです。

現場からの視点

面談室で、中堅職員にこう言われたことがあります。「私は新人のころ、厳しく言われて育ちました。今の子は甘やかされすぎです」。気持ちは分かります。でも私は、はっきり反対しました。厳しく言われて育ったのではなく、基準がはっきりしていたから育ったんです。

私はその職員に提案しました。「新人に言う前に、あなたが求めている基準を5つ、紙に書いてみて」。書けたのは3つでした。残りは本人の中でも曖昧だった。曖昧なものを求めるから、きつくなる。紙に書ける5つだけを、毎日100%求める。それが、きつくない厳しさです。

6.事業所で明日からやること ― 姿勢のルールを評価に組み込む5ステップ

順番だけ守ってください。

  1. 姿勢のルールを5項目に絞り、「100%の基準」を文章にする

    あいさつ・身だしなみ・時間・返事・報告の5つで足ります。各項目に「100%の基準」と「NG」を1行ずつ書きます。あいさつなら、100%は「自分から、先に、相手の目を見て。利用者・家族・職員・業者、全員に」、NGは「言われてから返す。小さい声。目を見ない」。報告なら、100%は「終わったら『終わりました』。変化は『すぐ』言う」。

  2. 評価表を「土台」と「積み上げ」の2段に分ける

    姿勢のルール5項目は、点数ではなく「できている/できていない」の2択にし、平均を取る対象から外します。その上に、行動のルールを3〜5項目だけ置く。多いと誰も覚えられず、印象で付けることになるからです。行動のルールは「3月末までに、日中の排泄記録を記入漏れゼロで1か月続ける」のように、期限と状態で書き、未達ならマイナス評価もつける。加点だけの評価表は、やらない人を守ってしまいます。

  3. 管理者とリーダーが、先に100%をやる

    職員に求める前に、施設長と主任が1週間、5項目に自分で○×を付けてください。×が1つも付かない管理者を、私は見たことがありません。自分の×を職員の前で認めてから始める。それだけで、「上の人は自分には甘い」という一番強い反発が消えます。

  4. 毎日○×、週に1回だけ理由を見る

    テキストでは職員に「1週間、毎日この5つに○×をつける。×があった日は、理由を書く」と伝えています。日々の○×は本人に任せ、管理者は週1回、×の理由だけを見る。点数より「変化」を見るためです。先週まで○だった返事が今週×になったら、技術ではなく、体か生活か人間関係に何か起きています。その見方は前回の面談の記事に書いたとおりです。

  5. 守れていない事実はその日に、守れた人には次の仕事を

    姿勢のルールの×は、翌日に持ち越しません。「今日、あいさつがなかった」をその日に、事実だけで伝える。そして、5項目が1か月100%だった人には、次の仕事を1つ任せる。掃除・補充・片付けから、記録、入浴介助、夜勤へ。任される順番は、信頼の階段です。

7.外国人職員も日本人職員も同じ基準 ― 「区別」はここから始まる

ここまで、外国人職員と日本人職員を分けずに書いてきました。姿勢のルールに国籍は関係ないからです。スリランカから来た職員にも、岐阜で生まれ育った職員にも、同じ5つです。

私は10年以上前の新人研修から、「オ・ア・シ・ス」と言い続けてきました。「おはようございます」「ありがとうございます」「失礼します」「すみません」。日本人の新人に求めてきたことを、外国人職員にも同じように求める。それが「差別はしない」の中身です。

一方で、「区別」は必要です。経験・資格・日本語・できる仕事の範囲が違えば、役割と給料が違う。日本人でも同じです。区別は、次に何をすればいいかを教えてくれます。ただし、区別は姿勢のルールの上に乗せるもの。土台を評価せずに「日本語がまだだから」と区別だけを示すから、「差別されている」と受け取られるんです。

「見て覚えろ」の問題は別の記事で、規律を曖昧にした受け入れがどう壊れるかはこちらで書きました。根は同じで、基準を紙にしていないことです。

現場からの視点

ある経営会議で、「外国人職員は日本語の問題があるから、日本人と同じ評価表は使えない」という意見が出ました。私は反対しました。評価表を分けた瞬間、現場は「別の基準で動く2つのチーム」になります。それは区別ではなく、分断です。

私の提案はこうです。評価表は1枚。姿勢のルール5項目は全員同じ。行動のルールの項目だけ、本人の段階に合わせて選ぶ。N3の職員には「申し送りを自分の言葉で3件言える」、N2の職員には「家族への状況説明を一人でできる」。同じ紙の上で、段階が違うだけ。これなら「なぜ給料が違うのか」を本人にも同僚にも説明できます。説明できる区別は、差別になりません。

8.よくある反論に答える

「姿勢だけ良くて仕事ができない人が高く評価されるのでは」

なりません。姿勢のルールは「土台の合否」であって、加点ではないからです。土台が合格の人は、行動のルールで評価される入口に立つだけで、そこで伸びなければ評価は上がりません。土台が合格で行動が伸びないなら、育成計画の問題であることがほとんどです。

「ベテランに今さらあいさつの話なんてできない」

できないなら、評価制度は作れません。ここに尽きます。新人は、ベテランが守っていないことを一番よく見ています。だからこそステップ3で、管理者が先に自分の×を認めるんです。「私もできていなかった。来月から全員でやり直す」。この一言があれば、ベテランにも言えます。

「人手不足で、厳しくして辞められたら困る」

私は反対です。姿勢のルールを求めて辞める人は、求めなくても遅かれ早かれ辞めます。その人が残っている間に、守っている人が先に辞めていく。人手不足だからこそ、残ってほしい人が「ここは公平だ」と思える基準が要るんです。

9.よくある質問

姿勢のルールと行動のルールの違いは何ですか?

「できる・できないが存在するかどうか」で分けます。あいさつ、身だしなみ、時間、返事、報告のように、やるかやらないかだけのものが姿勢のルール。介助の速さや記録の量、日本語のように差がつくものが行動のルールです。評価は、まず姿勢のルールの合否で決まり、その上に行動のルールを積みます。

介護職員の評価項目は、いくつくらいが適切ですか?

姿勢のルールは5項目で固定し、行動のルールは3〜5項目に絞ることを勧めています。多いと職員も評価者も覚えられず、印象で点を付けることになるからです。行動のルールは「いつまでに、どの状態か」を期限と状態で書き、達成と未達がはっきり分かる形にします。

姿勢のルールを守れない職員には、どう対応すればよいですか?

その日のうちに、感情を乗せず事実だけを伝えます。「今日はあいさつがなかった」で十分です。紙に書いた基準があれば、指導は基準との照合になり、きつくなりません。改善しない場合は、やらないという意思表示と受け止め、役割と任せる仕事の範囲で区別をつけます。

外国人介護職員にも、日本人と同じ評価基準を使ってよいのですか?

姿勢のルールは全員同じ基準にしてください。国籍で変える理由がありません。行動のルールだけ、日本語の段階や担当できる業務の範囲に合わせて項目を選びます。評価表は1枚のまま、同じ紙の上で段階が違うだけという形にすると、本人にも日本人の同僚にも、役割や給与の違いを説明できます。

評価制度を変えるとき、最初に何から手をつければよいですか?

管理者とリーダーが、姿勢のルール5項目を1週間、自分で○×を付けることからです。職員に求める前に、自分の×を認めて共有する。その後に基準を文章にして配り、評価表を「土台」と「積み上げ」の2段に分けます。文書を整えるより、管理者が先にやって見せるほうが、現場は早く動きます。

10.まとめ

押さえる点は3つです。第一に、仕事のルールは「姿勢のルール」と「行動のルール」の2種類あり、評価はまず姿勢のルールの合否で決まる。第二に、2つを混ぜて平均すると、技術のあるルール破りが黙認され、姿勢100%の新人が黙っていなくなる。第三に、姿勢のルールを守らせることと、きつく指導することは別物で、基準を紙にすれば指導は静かになる。

できる・できないの前に、やるか、やらないか。評価は、そこから始まります。明日の申し送りで、返事の0.1秒を見てください。

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出典・参考資料

※本記事は2026年11月4日時点の情報と筆者の経験をもとに作成しています。調査の数値は公表資料から引用していますが、最新の数値は各発行元でご確認ください。「現場からの視点」は筆者の経験に基づく見解であり、登場する場面は特定の個人や事業所を示すものではありません。