特定技能の人材が転職する際、制度上の正しい流れは「特定技能 →(変更申請)→ 新しい特定技能」です。
しかし、実際の現場ではこの“正規ルート”がほとんど使われていません。
背景にあるのは、変更申請にかかる時間の長さです。
■ 変更申請はなぜ使われないのか?
変更申請は、本来は最もシンプルな手続きです。
ところが実務では2〜3か月前後ストップするケースが珍しくありません。1か月で終わることの方が少ないほどです。
その間に外国人本人が直面するリスクは次の通りです:
- 就労不可(無収入)
- 前職の寮を退去する必要あり
- 生活の継続が困難に
この状況を耐えられる労働者は多くありません。
そのため現場では、制度上の別ルートが“安全策”として機能してきました。
■ 現場で広く使われてきた「特定活動ワンクッション」とは?
実務では、転職時に次のルートが利用されることが一般的でした。
特定技能 → 特定活動6か月 → 新しい特定技能
特定活動を挟む理由は明確です:
- 審査が早い(2週間〜1か月)
- 書類負担が軽い
- 本人がすぐ働ける → 生活が崩れない
この方法は、制度の穴を悪用するものではなく、むしろ「不法就労・失踪を防ぐための安全弁」として機能してきました。
■ しかし今、この安全弁が揺らいでいる
2025年から、在留手続の手数料(更新・変更)3,000円 → 30,000円への引き上げが議論されています。
※すでに法務省の資料として公表済み(公布待ち)。
これが実務に与える影響は非常に大きいです。
◎ 費用負担の現実
特定活動(約3万円)
→ その後の特定技能変更(約3万円)
= 合計6万円 / 1人
10人転籍すれば60万円。
50人抱える企業であれば300万円以上。
この負担を「毎回」払える企業は多くありません。
その結果、こうなります:
「もう特定活動を挟めない → いきなり特定技能変更で進めるしかない」
■ いきなり変更申請ルートに戻ると何が起きるか?
変更申請は遅い。これは今も変わりません。
すると本人の生活は次の状況に陥ります:
- 就労不可のまま数週間〜数か月
- 収入0で生活が維持できない
- 寮を出ざるを得ないケースも
そして最悪の場合、ここに流れます:
コミュニティ経由の非正規バイト → 日払い → そのまま制度に戻ってこない
一度外に出てしまうと戻らない理由は明快です。
- 日払いで収入が即得られる
- 手取りが制度内より高い
- 税金や社会保険の負担がない
- 生活コストが低い
制度内の労働条件よりも“楽で儲かる”環境が揃ってしまうため、復帰の動機が著しく下がってしまうのです。
■ 「不法就労・失踪」を増やす方向に働いてしまう危険性
今回の費用引き上げは、事務簡素化でも制度整理でもありません。
結果的に現場が使っていた唯一の緩衝材=特定活動ルートが機能しなくなるという副作用が生まれます。
これは制度全体にとっても大きなリスクです:
- 失踪率が上昇する
- 不法就労の増加
- 転職市場が混乱する
- 受け入れ企業も人材確保が困難に
つまり、机上の制度変更が、現場の安全策を壊してしまう可能性が高いのです。
■ いま企業・支援機関がやるべきこと
今回の動きはまだ“完全決定”ではないものの、ほぼ確実に導入される流れです。
そのため企業側は次の準備が必要になります。
- 転職オペレーションの見直し
- 費用負担をどうするか社内で決める
- 変更申請中の生活サポートをどう設計するか
- 失踪リスクを減らすための相談体制強化
特に介護分野(特定技能)では、転職が増えやすく、影響は非常に大きいと考えられます。
■ 最後に:制度は上から作られるが、運用は下から積み上がる
今回のテーマは「賛成 / 反対」ではなく、現場で実際に起きていることを共有するための記事です。
制度は法務省の机の上で整備されますが、
運用は企業・支援機関・現場の外国人本人によって積み上がっています。
唯一の緩衝材だったルートが消える可能性がある今、
現場の声を把握し、企業と外国人双方が損をしないしくみを考える必要があります。
動向が進み次第、最新情報をまた共有します。
現場で感じている課題や実例があれば、ぜひお知らせください。